以下から記事
本記事は、広く多くの方々が「カナダの森林破壊は進んでいるのか」という懸念に対して、「森林破壊は進行していない」という一般的な理解を簡潔に得られるよう、わかりやすく、且つ網羅的に解説した記事です。
なお、「日本におけるカナダ産木質ペレットによるバイオマス発電」については下記記事で詳しく説明しています。
あわせてご覧ください。
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1.カナダの森林面積の現状
世界の森林面積が減少しているというニュースを目にすることがありますが、
カナダでは森林面積が過去25年以上にわたっておおむね安定して推移している点が大きな特徴です。
森林減少が生じている地域やケースもありますが、その規模はカナダ全体から見ると比較的小さいです。
また、農地開発など土地利用の転換を伴う「森林減少(deforestation)」の発生率についても、国際的に見るとカナダは低い水準にあります。
<図 カナダの推定森林面積>

引用:Natural Resources Canada|The State of Canada’s Forests:Annual Report 2025
2.持続可能な森林経営に向けたカナダ政府・産業界の具体的な取り組み
カナダでは森林面積が大きく減少することなく、長期的に安定して推移しています。
一方で、森林伐採や資源の活用方法について懸念の声が上がることもありますが、現地の実態は必ずしもその印象と一致していません。
カナダ政府や関連企業は、「持続可能な森林経営や環境保全」「経済活動」を高い次元で両立させるための仕組みづくりをリードしています 。
2-1.「持続可能な木質ペレット生産」の具体的な取り組み
カナダは世界有数の木質ペレット生産国であることから、「ペレット生産のために森林が伐採されているのではないか」という懸念が示されることがあります。
しかし、実際には
| 「木質ペレットの原料の多くは製材工場で発生する副産物や、森林整備の過程で生じる間伐材・林地残材」であり、燃料目的で良質な丸太を大量に伐採する仕組みとはなっていません。 |
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2-1-1.木材をカスケード利用(多段階利用)している
木材のカスケード利用とは「価値の高い用途から順に無駄なく使い、最後にどうしても使えない部分だけをエネルギーとして利用する」ことです。
〈木材のカスケード利用の流れ〉
| ①木材を最も価値の高い用途から使用 伐採された丸太はまず住宅材やパネル材など、長期間炭素を貯留する製品に加工されます。 ②ペレットは「最後の活用段階」 製材副産物(おが屑・かんな屑)や林地残材、虫害木・火災被害木など、他では利用できない木材だけがペレット原料になります。 |
カナダの木質ペレット産業は、この原則に基づく「循環型の生産体制」を特徴としています。
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2-1-2.森林管理と連動して間伐材・除去木を活用する
持続可能な木質ペレット生産に向けて、カナダでは森林の健全性を維持するため「森林管理と連動した原料利用」が進められています。
具体的には、過密な森林を整備する過程で発生する「間伐材」や、山火事リスクを低減するために除去された「枯死木・倒木」を、廃棄せず木質ペレットの原料として活用する取り組みです。
上記のように、森林管理の過程で生じる木材を有効活用することは、森林保全と再生のサイクルを維持しながら再生可能エネルギーを供給する取り組みの一つとされています。
2-2.「生物多様性と生態系の保全」の具体的な取り組み
カナダでは森林の約90%を「州・準州」が所有し、連邦政府や私有地が極端に少ないのが大きな特徴です。
<図:カナダにおける森林所有権の割合>

| ※Public forest land owned by provinces and territories・・・州・準州が所有する公有林 ※Public forest land owned by federal government・・・連邦政府が所有する公有林 ※Privately owned forest land・・・私有林 |
したがって、州ごとの産業構造や生態系の違いに合わせて、森林に対し独自の保護対策がとられています。
2-2-1.ブリティッシュ・コロンビア州(BC州)の取り組み
カナダの太平洋側に位置するブリティッシュ・コロンビア州(BC州)は、豊かな森林資源を守りながら活用するための、先進的な森林管理モデルを構築しています。
BC州の林業地域は大きく「沿岸部」と「内陸部」に分けられ、それぞれの環境特性に応じたきめ細やかな管理が行われています。
<BC州の取り組み 一例>
| 取り組み | 詳細 |
|---|---|
| 自然林の伐採延期措置 | 約260万ヘクタールの人の手が加わっていない古くからの森林について、長期的な管理計画が策定されるまで伐採を一時的に停止している。 |
| 年間許容伐採量制度の導入 | 首席森林管理官が、10年ごとに最大伐採量を設定。 これにより生態系の劣化防止や生物多様性に配慮しながら、250年以上の長期的な持続可能性を確保可能。 |
| 伐採権制度の導入 | 伐採事業者は州が発行する「伐採権」の取得が必須。伐採後には再植林の義務が課される。 |
参考
- Government of British Columbia|Ministry of Forests
- 林野庁|「クリーンウッド」普及促進事業のうち 違法伐採関連情報の提供 (⽣産国における情報調査)
- 林野庁|合法伐採木材等に関する情報:カナダ
- カナダ ウッド・カナダ林産業審議会|持続可能な森林経営
2-2-2.ケベック州(QC州)の取り組み
ケベック州は「科学的に貴重な森を法的にロックする」というアプローチをとっています。
QC州政府が生物多様性の維持に不可欠な森(希少な森、絶滅危惧種の避難場所など)を科学評価で特定し、法的に保護します。
一度指定されると、原則として全ての森林管理活動(伐採や道路建設など)が禁止されます。
すでに数百箇所が指定されており、商業林の中にあっても、そこだけは「聖域」として守られる仕組みです。
参考
2-2-3.アルバータ州(AB州)の取り組み
石油産業や林業が盛んなアルバータ州では、過去の開発で分断された森を「元に戻す」活動に力が入れられています。
過去の資源探査で森の中に作られた「直線状の道」は、狼がカリブーを捕食しやすくする「高速道路」になってしまい、生態系バランスを崩していました。
AB州政府・企業・先住民が協力し、この道を植林で埋め戻して森に還すプロジェクトを大規模に進めています。
「これ以上壊さない」だけでなく、「壊れたものを治す」という段階に入っています。
参考
2-3.「気候変動対策と持続可能な森林保全」の具体的な取り組み
森林は成長の過程でCO₂を吸収・固定し、大気中のCO₂濃度を下げる重要な役割を果たします。
また、管理された森林から生まれる木質バイオマスは、燃焼時に出るCO₂と成長時に吸収したCO₂が相殺されるため、大気中のCO₂を増やしません。
森林を適切に管理・活用することは、気候変動対策としてとても有効です。
2-3-1.木質資源の活用はカーボンニュートラルに貢献する
木質バイオマスは燃焼時に出るCO₂と成長時に吸収したCO₂が相殺されるため、大気中のCO₂を増やしません。
例えば、以下のような考え方があります。
<木質バイオマスにおけるCO₂の考え方>
| 考え方 | 詳細 |
|---|---|
| 「自然排出されるCO₂」を、エネルギー資源に転換する | ペレットの主原料である製材残渣や林地残材は、放置しても腐敗・分解が進み、結局はCO₂やメタンガスを放出します。 「自然排出されるもの」をエネルギーとして使い、その分だけ化石燃料を減らす方が合理的です。 |
| 「1本の木」ではなく、「森全体の収支」で判断する | 1本の木の成長を待つのではなく、「森全体」の総量で評価します。伐採されるエリアがあっても、他のエリアで成長が続いており、森全体のCO₂吸収量が排出量を上回っている限り、カーボンニュートラルは成立しています。 |
バイオマス発電の一般的な概要や日本の木質バイオマス発電については、下記記事をご覧ください。
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2-3-2.木質資源の活用がCO₂削減に貢献する|ライフサイクルGHGは少ない
森林管理の過程で生じる残材や製材副産物を木質ペレットとして活用することは、CO₂排出を大幅に削減できる取り組みです。
製造・輸送・加工など、全ての工程を含めた「ライフサイクルGHG」で見ても、木質ペレットによるバイオマス発電の優位性は揺るぎません。
「カナダから運ぶとCO₂が出る」という指摘がありますが、大型船による大量輸送は効率が良く、その排出量は微々たるものです。
太平洋を横断する輸送コスト(CO₂)を差し引いても、石炭火力に比べて80〜90%以上のGHG削減効果があります。
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2-3-3.「気候変動対策基金」の創設
気候変動対策基金(Nature Smart Climate Solutions Fund)は、今ある森を「守る」、劣化した森を「治す」、そして森の「管理方法を改善する」ことに資金を投じます。
森林分野においては、具体的に以下の活動を支援しています。
| – 森林転用の防止(開発などから森を守る) – 森林管理の改善(CO₂排出を抑えた施業など) – 劣化した森林の回復(生態系機能の再生) |
この基金の特徴は、単に植林数(量)を追うだけでなく、炭素を大量に蓄えている既存の古い森や泥炭地など、「森林生態系そのものの機能(質)を守り抜く」ことを支援していることです。
参考
2-4.「先住民族との連携強化」の具体的な取り組み
カナダの森林地帯は先住民族の文化や生活の基盤でもあるため、森林利用における権利の尊重はとても重要です。
| 近年は法制度や行政手続きの整備が進み、計画段階から先住民族の知見を取り入れ、対話を通じて持続可能な利用を共に進める協働の枠組みが積極的に進められています。 |
2-4-1.州政府と先住民族による共同管理の推進
BC州は2019年、「先住民族の権利に関する宣言(UNDRIP)」を州の指針として取り入れることを明確にしました。
政策づくりや森林管理において、先住民族との協議・協働を重視する姿勢が公式に示されています。
また、BC州以外でも土地利用計画や森林管理においては、計画の初期段階から先住民族が参加し、互いの知識と視点を活かしながら、より良い管理のあり方を協議する仕組みが整えられています。
| BC州以外の主な取り組み アルバータ州:森林管理への先住民族直接参加が拡大 ケベック州:州と先住民族の共同意思決定モデルが確立 オンタリオ州:先住民族主導の森林企業が発展 |
参考
2-4-2.文化的遺産(CMT)の保護
BC州では森林開発における文化遺産保護も重要視しており、Culturally Modified Trees(CMT:文化的変形樹木)をはじめとした先住民族の歴史・文化に関わる資源を適切に扱うための手続きや指針が定められています。
CMTの記録・保護に関するガイドラインが整備され、森林計画に先住民族の知識を反映することで、文化的価値を次世代へ受け継ぐ取り組みが進んでいます。
また、伝統的な利用が重要視されるエリアが計画に反映されるなど、文化・自然の双方を尊重した森林管理が推進されています。
参考
3.森林が失われている伐採以外の要因
一般的に「森林減少=人間の伐採」というイメージを持たれがちですが、森林が消失している最大の要因は、実は産業活動ではなく「山火事」です。
世界資源研究所(World Resources Institute, WRI)が公表しているデータによると、森林破壊の主な原因は「山火事」です。
| 世界資源研究所(World Resources Institute, WRI):環境問題・気候変動・森林・水資源・都市などに関する非営利の国際的なシンクタンク(研究機関)。 |
<図:カナダの森林が失われた主な要因>

引用:WRI|Global Forest Watch|Canada
<カナダの森林が失われた主な要因>
| 面積 | 割合 | 性質 | |
|---|---|---|---|
| 森林火災 (Wildfire) | 4,100万ha | 66.4% | 一時的な森林消失 |
| 伐採 (Logging) | 1,900万ha | 30.8% | 一時的な森林消失 |
| 害虫や病害などの自然要因 (Other natural disturbances) | 91万ha | 1.5% | 一時的な森林消失 |
| 農地転用 (Permanent agriculture) | 40万ha | 0.6% | 森林破壊 |
| 資源採掘 (Hard commodities) | 29万ha | 0.6% | 森林破壊 |
| 都市開発・インフラ整備 (Settlements&Infrastructure) | 16万ha | 0.2% | 森林破壊 |
3-1.深刻な「山火事」被害
近年、カナダでは気候変動の影響により、過去に類を見ない規模の山火事が発生しており、その被害面積は林業による伐採面積を遥かに上回っています。
特に2023年はカナダ史上最悪の山火事シーズンとなり、1年間で約1,800万ヘクタールが焼失しました。
これは過去平均の7倍以上、北海道の約2.2倍の広さに相当します。
<図:年別のカナダにおける森林減少>

引用:WRI|Global Forest Watch|Canada
カナダの公共放送「CBC」でも、以下のように報道されています。
通常の小規模な火災は「森の更新」に役立ちますが、近年の高温化によって発生する高火力の火災は、土壌中の種子や微生物までも焼き尽くしてしまいます。
その結果、自然の回復サイクルが働かず、森が草原や荒地へと変質するなど、不可逆的な環境破壊を引き起こしています。
上記のような背景から、カナダの森林では山火事対策が最重要課題となっています。
3-1-1.山火事の被害木は木質ペレットの原料として活用できる
山火事で焼損した被害木は、表面が炭化していたり強度が低下していたりするため、高値で取引される住宅用建材などには利用できません。
従来であれば、被害木は商品価値がないため、森に放置されるか、焼却処分されるしかありませんでした。
しかし、木質ペレットであれば「品質の劣る被害木も粉砕・圧縮することで、エネルギー資源として有効活用することが可能」です。
被害木をペレット原料として森林から搬出することは、資源の有効活用だけでなく、「将来の火災リスクを下げる」「森の再生を助ける」といった森林を守る活動にも直結しています。
4.最後に
本記事では、カナダの森林の現状と、その持続可能性を巡る議論や具体的な取り組みについて解説しました。
「森林が急激に失われている」という一般的なイメージとは異なり、客観的なデータによれば、カナダの森林面積は過去25年以上にわたって概ね安定した水準を維持しています。
農地や都市への転用を伴う「森林減少(deforestation)」の発生率は、他国と比較しても極めて低い水準に抑えられているのが実態です。
大切なのは「保護か、林業か」という二項対立ではなく、科学的根拠に基づき「どう管理し、共存するか」という多角的な視点を持つことです。
実際に、行政や産業界も「カスケード利用」や「先住民族との協働」などを通じ、環境と経済の両立を模索し続けています。
また、気候変動によって深刻化する「大規模な山火事」こそが、現在のカナダの森林が直面している最大の脅威といえます。
カナダは今、科学と伝統を融合させ、世界で最も持続可能な森林管理モデルの構築に挑戦しているといえるでしょう。
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